食文化概論
日本と世界の食文化を学ぶ科目
食文化概論は、日本や世界の食文化、郷土料理、調理の歴史などを学ぶ科目です。 食文化の成り立ち、日本料理の発展、行事食、世界各国の料理の特徴などが出題されます。 調理師として食の文化的背景を理解することは、料理を通じた文化の伝承に重要です。配点は5%です。
1食文化の成り立ち
文化と食文化
文化(culture)とは、人間が自らの知恵によって創り出してきた、物質的・精神的な一切の成果の総称です。 道具の使用や火の利用のような人間生活の向上に直結する技術の発達は、すべての人類に共通の利益をもたらしますが、 社会集団の中の風俗・習慣や人間関係のような精神活動には、集団ごとに自然と価値観の差が生じてきます。
食文化とは、人間の生活行動に関する技術や意識の文化を「生活文化」といい、そのなかで 食物摂取行動に関する文化を「食文化」あるいは広く「食生活文化」と呼びます。
食事の機能
食物の基本的条件である安全性、栄養性、嗜好性の3つを満たすことです。 これらは地域や民族を問わず人類共通の文化に属しています。
食物の制限条件としてあげられる経済性、簡易性、利便性など、 食物調製の作業効率にかかわる条件や生活文化の要因も加わってきます。
趣味、娯楽、団らんなど付加価値的な要素や、信仰・節制、行事、保健、医療などの 特殊要素も食事の機能として重要です。
世界の食事様式
世界の食事様式には、手食、箸食、ナイフ・フォーク・スプーン食があり、これを三大食法といいます。 現在、世界全体の約40%が手食で、箸食、ナイフ・フォーク・スプーン食はそれぞれ約30%と推測されています。
人類食文化の根源であり、現在もアフリカ、オセアニア、中南米の先住民、イスラム教徒やヒンズー教徒を中心とするインドや東南アジア、西アジアの人々の間に浸透しています。
古代中国に起源があり、その周辺の文化に伝播しました。現在、日常の食事に箸を使用するのは、中国、朝鮮半島、日本、ベトナムなどです。
ヨーロッパ、スラブ圏、およびアメリカなどで発達した食事様式です。17世紀以降になって、ナイフ、フォーク、スプーンの3種類を使用して食事をする習慣が上流社会から始まりました。
調理の起源と役割
人の食文化を象徴するものとして、道具の使用、火の利用、食物の味つけの3つがあげられます。
皮をむく、切る、きざむ、混ぜるなど、人間の手、指、歯などの機能を代行するものや、人力では不可能な大量処理を目的とするものなどがあります。
穀類やいも類のでん粉、豆類や動物の肉、すしなどのたんぱく質のように、人間にとってそのままでは消化が困難な食品成分の利用を可能にし、植食性の食生活を完成させました。
食物を素材だけで味わうものではなく、調味料と組み合わせによって成立するものとし、味料は食生活を豊かなものにする一方で、過度の使用により食品の栄養成分との不調和を生じさせ、人間の食嗜好を素材の味から遠ざける原因となります。
試験のポイント
- ・食事の3つの機能(生命維持、生活要素、付加価値)を理解する
- ・三大食法(手食、箸食、ナイフ・フォーク・スプーン食)を覚える
- ・調理の起源と役割(道具の使用、火の利用、味つけ)を押さえる
2日本の食文化と料理
日本の食文化の成立と発展
日本の食文化は、時代とともに様々な影響を受けながら発展してきました。 縄文時代から現代に至るまでの変遷を理解することが重要です。
| 時代 | 特徴 |
|---|---|
| 縄文時代 | 狩猟・採集が中心。縄文式土器を用いた加熱調理が始まる |
| 弥生時代 | 稲作が伝来。米依存型食生活が形成され、日本料理の特性が方向づけられる |
| 奈良・平安時代 | 中国大陸文化の影響を受け、唐風食模倣時代。675年に初めて肉食禁止令が出される |
| 鎌倉・室町時代 | 精進料理の発達。本膳料理が確立。茶道とともに懐石料理が生まれる |
| 安土桃山時代 | 南蛮文化の伝来。天ぷら、カステラなどの南蛮料理が広まる |
| 江戸時代 | 鎖国により日本料理が発達・完成。会席料理、寿司、天ぷら、蕎麦などが発展 |
| 明治以降 | 文明開化とともに肉食の発達。牛なべ、すき焼きが広まる。洋食、中華料理も普及 |
日本料理の形式
室町時代に武家社会の饗宴食として確立。本膳、二の膳、三の膳と膳を重ねていく形式の食事。 現在ではあまりみられなくなりましたが、儀式用日本料理の基本です。
茶の湯の発達とともに生まれた、茶事の前に供する食事。素朴で簡素なものをよしとし、 一汁三菜が基本です。「懐石」の名は、禅宗の僧侶が修行中に温めた石を懐に入れて 飢えをしのいだことに由来します。
本膳料理を簡略化したもので、江戸時代の町民の間で発達。 現在最も一般的な宴会料理の形式です。酒を楽しむことを主目的としています。
調理師制度の成立
調理師(または調理士)の制度を条例で設けたのは京都府が最初で、1950年(昭和25年)のことです。 その後、全国統一の制度を求める声が高まり、1958年(昭和33年)に調理師法が施行されました。 1997年の改正で、調理師養成のカリキュラムに「食文化概論」が追加され、 調理師の職務は食文化に大きなかかわりのあることが裏づけられました。
和食のユネスコ無形文化遺産登録
2013年(平成25年)、「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。 「無形文化遺産」とは、伝統的な芸能や工芸技術などの形のないものです。
「和食」の特徴として、以下の4点があげられています
- 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
- 健康的な食生活を支える栄養バランス
- 自然の美しさや季節の移ろいの表現
- 正月などの年中行事との密接な関わり
試験のポイント
- ・日本の食文化の時代ごとの特徴を覚える
- ・本膳料理、懐石料理、会席料理の違いを理解する
- ・調理師法の施行年(1958年/昭和33年)を覚える
- ・和食のユネスコ無形文化遺産登録(2013年)と4つの特徴
3伝統料理・郷土料理
伝統料理とは
さまざまな伝統料理は、風土や習慣、歴史、思想などの影響を受け、長い年月をかけて形成され、 時代を超えて受け継がれています。現代では、特別な日にある年中行事の行事食や通過儀礼の食、 また、地域の気候・風土・生活環境のもとで生まれた郷土料理に伝承されています。
ケの食事とハレの食事
日常の食事であり、民間の習俗(風習)を研究する民俗学では、それをケ(ふだん、日常)の日と区別する。 ケの食事は、身近で手に入る穀類、野菜類、魚介類などから構成され、 それぞれの地域の生活文化の実態を反映しています。
集落、村落など社会集団が仕事の節目にともに祝ったり、祈願したりするためのもので、 「神人共食」という思想から始まっています。祭りの日に、酒、野菜、果実などを 神饌として神に供え、その神に捧げた食べ物を下げて人々が合同で食べるのを直会と呼んだ。
年中行事と行事食
| 月 | 行事 | 行事食例 |
|---|---|---|
| 1月 | 正月、七草(人日) | 雑煮、おせち料理、七草がゆ |
| 2月 | 節分、初午 | 福豆、恵方巻き、いなり寿司 |
| 3月 | 桃の節句(上巳) | 菱餅、ちらし寿司、はまぐりの吸い物 |
| 5月 | 端午の節句 | 柏餅、ちまき |
| 7月 | 七夕、土用の丑の日 | そうめん、うなぎ |
| 9月 | 重陽、十五夜 | 菊酒、栗ごはん、月見団子 |
| 12月 | 冬至、大晦日 | かぼちゃ、小豆がゆ、年越しそば |
郷土料理の例
石狩鍋、ジンギスカン鍋
きりたんぽ(秋田)、わんこそば(岩手)、ずんだ餅(宮城)
深川めし(東京)、しもつかれ(栃木)
ほうとう(山梨)、五平もち(長野)
千枚漬け(京都)、ふな寿司(滋賀)
出雲そば(島根)、皿鉢料理(高知)
からしれんこん(熊本)、チャンプルー(沖縄)
試験のポイント
- ・ケ(日常)とハレ(祝祭)の食事の違い
- ・五節句と行事食の組み合わせを覚える
- ・各地域の代表的な郷土料理を押さえる
4世界の食文化と料理
西洋料理の歴史
現在、西洋料理といわれるのは、ヨーロッパ、南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド料理の総称です。 西洋料理の共通の特色は、獣鳥肉、乳製品、油脂、香辛料を多用すること、 小麦粉など穀粉からつくったパンを常食することです。
洗練性、豪華、高級宴会料理。カエル、エスカルゴ、フォアグラ、パテ、キッシュなどが代表的。 オーギュスト・エスコフィエは1903年に「料理の指針(Le Guide Culinaire)」を出版し、 5,000種以上の料理を分類した古典料理の再構築を行いました。
温暖、素材の季節性、地域性。パスタ類、トマト、オリーブ油、魚介・野菜料理が特徴的です。
保守的、合理的、実質的。ローストビーフ、キドニーパイ、プディング、紅茶と ビスケット(スコーン)、フィッシュアンドチップスなどが代表的です。
中国料理の歴史
中国料理は、医薬や道教思想と結びついた世界でも独特の料理です。 「以食為天(食をもって天となす)」と述べられているように、 中国人の食物への関心は高く、調理担当員の地位が高いことで知られています。
| 地域 | 代表料理 | 特徴 |
|---|---|---|
| 東方(上海料理) | 上海蟹、紅焼肉、小籠包など | 四季温暖、素材が豊富、米食、魚介類 |
| 西方(四川料理) | 麻婆豆腐、棒棒鶏、担担麺など | 冬季厳寒、香辛料、淡水魚、唐辛子 |
| 南方(広東料理) | 酢豚、八宝菜、油淋鶏など | 季節感豊か、素材・調理法ともに多彩 |
| 北方(北京料理) | 北京ダック、炸醤麺、餃子など | 小麦粉、油、羊、にんにく、薄皮饅頭 |
エスニック料理
エスニック料理という言葉は、1960年代後半のアメリカで使われ始めました。 「エスニック」とは「民族の」という意味で、共通の祖先をもち、言語、衣食住、宗教など の文化を共有し、他の集団との差異を共感できる人間の集団意識です。 日本では主に、東南アジア一帯(タイ、ベトナムなど)、中近東(エジプト、イランなど)、 中南米(メキシコ、ブラジルなど)の料理の総称としていわれることが多いです。
トムヤムクン(えび入りスープ)、グリーンカレー(青唐辛子入りのカレー)
ゴイクン(生春巻き)、フォー(米粉の麺)
タンドリーチキン(鶏肉の窯焼き)、ナン(窯焼きパン)
トルティーヤ(薄焼きパン)、タコス(トルティーヤに肉や野菜、サルサを挟んだもの)
試験のポイント
- ・西洋料理各国の特徴と代表的な料理
- ・エスコフィエと「料理の指針」
- ・中国料理の4つの地域と特徴
- ・エスニック料理の代表例
5食料生産と食文化の未来
食料生産と消費のバランス
第二次世界大戦後、わが国の食生活は、飢餓に近い状態から高度経済成長期を経て、 現在では世界でも有数の豊かな食生活を享受するようになりました。 現代の食生活は「飽食の時代」と呼ばれていますが、同時に、家庭・外食の残食や食料品店の店頭廃棄など の食品ロス(食べられるのに捨てられてしまう食品)も問題視されています。
食品ロスの削減
令和元(2019)年5月には「食品ロスの削減の推進に関する法律」(食品ロス削減推進法)が公布され、 10月1日より施行され、食品ロス削減に努めています。
食品ロスには3つあり
- 過剰除去(野菜の皮を厚くむく、肉の脂身などを調理せずに捨てること)
- 食べ残し(冷蔵庫などに入れたまま調理せず、食卓にのせることなく廃棄すること)
- 直接廃棄(食べられる部分を捨てること)
毎日、国民1人当たり約102g(おにぎり約1個)の食物が捨てられている計算になります。
食料自給率
現代の飽食を支える食料自給率は、世界的水準からみてもきわめて低く、供給熱量ベース自給率は約40%を割っています。 米を除くほとんどの食品を輸入に頼っています。
フード・マイレージとトレーサビリティ
食品が消費者のもとへ輸送されるまでに排出される二酸化炭素量を数値化したもの。 数値が小さいほど環境負荷が少ないと考えられます。
食品が生産、加工、輸送、販売を経て、消費者に届くまでの流通過程を記録し、 食品の移動ルートを把握できるようにすること。食品事故等の問題が発生した際、 原因究明や商品回収等を円滑に行うことができます。
これからの食文化
調理を追究するには、まず食事の目的と性格に合った食事計画や調理法が選択されなければなりません。 それには、民族、地域の伝統的な食生活文化の変容について、理解と認識をもつことが不可欠です。 また、マイクロ波、加圧調理など、調理操作の新技術やクックチルシステム、真空調理法などに代表される 保存・流通法の変化に基づいた新調理システムの開発も進んでいます。 これらは現代に発生した新しい食文化として、次代に受け継がれていくでしょう。
試験のポイント
- ・食品ロス削減推進法(2019年施行)
- ・食品ロスの3つ(過剰除去、食べ残し、直接廃棄)
- ・フード・マイレージとトレーサビリティの意味
- ・日本の食料自給率が低いこと(約40%)